神楽先生には敵わない
その時のたまたま空いていたベンチを見つけると、私達はそのまま腰を下ろした。
「座る場所あってラッキーでしたね。これだけの人がいたら場所も探すの苦労しそうです」
「そうだね、打ち上げから少し離れてるけど充分充分」
はぁと一息付くと、先生は一服させてねと信玄袋から煙草を取り出し一本火をつける。
一つ一つの行動が何だか今日は特別格好良く見えて、
その度に私は心ここに有らずだ。
「何か食べるものでも買ってこようか。さっき林檎飴あったし」
「―――あ、私が行きます!先生はここで休んでて…」
「いいのいいの、みちるちゃんはここで待っていなさい」
一服終え立ち上がって呟く先生に、
私が慌てて声をかけるとポンポンと頭を優しく撫でながら笑った。
でも‥と申し訳なさそうに見上げる私に、
先生はそれにね、と言葉を続ける。
「みちるちゃんが買いに行ったら何時に戻ってくるかわからないでしょ」
「うっ…」
プププと含み笑いしながら少し嫌味っぽく言われ方向音痴の私は何も言い返せない。
「すぐ戻ってくるから」
先生はそう言い残し再び群衆の中へと舞い戻って行く後ろ姿を見守るしか出来なかった。