神楽先生には敵わない
先生が自分の話をしてくれたのは、数えるほどしかない。
仕事の先生は毎日見てるのに、
その本質までは私の中でまだ捉えられていなかった。
「夏になったら川で魚を取りに。秋になったら作った米を収穫しにいって、冬になったら全力で雪遊びする。春になったら、山に登って山菜を取りに行くんだ」
空を眺めながら花火を見るその目には、
きっと故郷の光景が走馬灯のように流れているのかもしれない。
「ふきのとうって、春の使者って言われてるの知ってる?」
「春の使者?」
「ふきのとうが目を出すと春の訪れを告げるって言われてるんだ。あ〜天ぷらにしてまた食べたい」
当時の事を思い出しながら笑う先生はまるで子供のよう。
「いつかみちるちゃんにも食べさせてあげたいな」
互いの目があった瞬間、大会で一番大きな花火が打ち上がる。
その明るさはきっと今の私の真っ赤な顔を照らし出している事だろう。
「私も…、食べてみたいです。ふきのとうの天ぷら」
先生との間にある長い時間は遡れないし巻き戻せないけど、
今こうやって一緒にいる時間が、
これからも当たり前のように流れればいいなと思う。