神楽先生には敵わない
「温泉、ですか?」
数日後、私は先生の自宅にある書斎で今後のスケジュール確認と、
紙面で企画される内容の話をしていた。
だが、先生はそんな話は置いといて。ぐらいにニュアンスで、
いきなり温泉の話をし始めたのだ。
「この前見せてもらったプロットには温泉の下りはなかったですよね」
プロットというのは、原稿に描く前に作る下書きみたいなもので、
大体の話の流れや人物の配置などラフ書きで描かれている。
次回号分にプロットができたら必ず確認をして、
全体的な修正があれば先生と話し合って方向性を決めていく事になっているのだが…。
「だって急に行きたくなったんだもん」
「へ?」
「二泊三日ぐらいなら調整できるでしょ?」
「取材とかじゃなくて、ですか」
「じゃぁ、そういう名目にしておこう」
先生の言い方だと全く作品には無関係、だたの旅行気分で話をしている感じだ。
「あの、何でまた急に…」
若干困惑気味に話す私をよそに、
先生は差し入れに持ってきた有名店のマドレーヌを美味しそうに頬張っている。
「ん~、なんとなく。あ、ほらアシ様達も誘ってさ。好きでしょ、女の人って温泉」