神楽先生には敵わない
車で揺られて一時間。
中心市街地から離れただけでこんなにも時間の流れが違うのかと思うほど、ゆったりとした時間が流れている。
山囲まれて、辺りには田園風景が並んでいる。
「先生、何処に…?」
「もう少しだからね」
レンタカーを借りてここまでやってきたものの、
先生は上機嫌で運転したまま未だに行き先を言おうとしない。
開けた窓から吹きつく程よく冷たい風を感じつつ、
先生の様子を時折伺いながらその時を待った。
―――でも少し嬉しいかも。
ここに来た理由がなんにしろ、
先生が生まれ育った場所を見れるなんて素直に感動する。
昔はどんな子供だったのか、どんな学校生活だったのか、
どんな恋愛をしてきたのか。
話したい事も聞きたい事も沢山あるんだけどな。
車は次第に道なき道を通り舗装された道路では無く砂利道を走り出した。
ガタガタと小さく揺れながら走ること数分、先生は山の斜面に車を止めた。
「ここから少し歩くからね」
そう言って後部座席から取り出したのは豪華な花束だ。