神楽先生には敵わない
「先生、これ」
二人で綺麗になった墓石を清々しい気持ちで眺めた後、
私はバックからウエットティッシュを数枚取り出し、先生に渡した。
「準備がいいねぇ。いいお嫁さんになるよ、みちるちゃん」
「ほっといてください」
ふふふとにやけながら呟く先生に、小っ恥ずかしい気分になりつつ自分も汚れた手を拭いた。
「ここには先生のご先祖様が?」
「そうそう。親と妹がね」
「妹さん…?」
初めて知った妹の存在。
先生は綺麗になった手で持ってきた供花を花立に挿し線香に火を付けた。
「綾香って言うんだ」
その名前を聞いた瞬間、今までのモヤモヤが一気に晴れたような気分になった。
「あやかって…、先生」
「そう、僕のペンネームは死んだ妹から取ったんだよ」
衝撃の真実に驚きを隠せない私に、先生は香炉に煙が揺らぐ線香をそっと置いた。
二つ下の妹は幼い頃から漫画を描くのが好きだった。
描いては僕に見せてきて意見を求めてきた。
「どう?どう?」
「んー、もうちょっとイケメンな男子が欲しいな。例えば僕みたいな?」
「サイテー。ホント意味わからない。もう少し真面目な意見聞かせてよ」