神楽先生には敵わない
当時の僕は絵や話の内容なんて無知の素人だったけど、
面白かったしそれなりに読める内容だった。
中学生になった妹は本格的な漫画を描くようになり、時には出版社に持ち込みや応募もすることも度々あった。
本気で漫画家になりたいんだと僕はそう、思っていた。
「でも、中3の朝登校中に車とぶつかってね、脊髄を損傷して思うように手が動かない後遺症が残ったんだ」
「…」
先生の口から語られる苦しく切ない過去。
私は墓石を見つめながら話す先生の横顔をただ眺めて、
耳を傾けるだけしか出来ない。
時折吹く冷たい山の風は、もしかして空の上にいる家族の挨拶だろうか。
「リハビリしても全然描けない…!もう嫌だ!!」
「綾香…!!」
妹は必死に手を動かしたりマッサージして何とか感覚を思い出そうと必死だった。
でも思うように出来ない苛立ちと痛みに自暴自棄になると、
それを宥めるのが僕の毎日の日課でもあった。
苦しむ姿を見ているのが辛かった。
漫画を楽しそうに描いている日常が全て夢だったんじゃないかって思うぐらい。
事故以来、妹は笑わなくなった。
「それから…、妹さんは…?」
「橋から川に飛び込んで自殺した。事故から半年後の事だよ」