神楽先生には敵わない
色んな意味で疲れながら遺品を整理してた時に出てきた、漫画のプロット。
B5ノート数冊に書かれていたのは、
これから描きたい作品のキャラクターや話の設定。
細部まで細かく決めていて本人の思いが伝わってきた。
「それ見て決めたんだ。これからは妹の代わりの漫画を描いてやろうって」
妹が叶えたかった夢、それが自然と自分自身の夢に変わっていた。
「高校卒業してすぐ東京来て、バイトしながらアシスタントして。もう寝る間もなかったなぁ」
先生は笑いながら煙草を一本取り出し、火をつけた。
その一つ一つの動作すら私の胸を熱く焦がす。
瞬きもする暇もないぐらい、先生の姿を目に焼き付けたかった。
「二十三歳でデビュー決まって、それから何年間は妹の原案を元に描いてた。でも今の作品は完全なるノンフィクションなんだ」
兄は微かに気づいていた、実際に妹は中学生の時に担任の教師に対してほのかな恋心を抱いていた事を。
その淡い恋愛模様をいつか自分の手で描いてみたかった。
もしあの当時まだ生きていたら、
恋愛もして友達とも遊んで楽しい高校生活が待っていたはず。
だったら漫画の中でその希望を叶えてやることが自分が今できる最高の供養かもしれないと思った。