神楽先生には敵わない
ホテルの裏庭にある広い庭園についさっきまで一緒だった先生がベンチに座って煙草を吸っていたのだ。
私も建物から一度出て、先生がいるベンチへと向かう。
「お、みちるちゃん」
「こっちの夜は関東と違って風が冷たくて気持ちいいですね」
日中の蒸し暑さから解放されるように空気は冷たく呻る暑さも感じられない。
夜風と共に感じする匂いはあの時を同じように木々の香りだ。
「やっぱりこっち来ると落ち着くなぁ。東京戻りたくないなぁ…」
「帰ってすぐに次の巻頭カラーのチェックと、年末の企画の打ち合わせです」
「えぇ、もう仕事!?もう年末!?」
「当然です。それにもう九月ですよ?年末年始なんかすぐきます!」
「ひえぇ…みちるちゃん怖い…、鬼…」
ボソリと言った先生の一言に追い打ちをかけるように、
項垂れる先生の横目に見ながらフンと鼻息荒く現実を突きつけた。
「でも…、今回の旅行誘ってくれてありがとうございました」
無理してでも計画して良かったと思っている。
花火大会以来、先生との間に見えない壁みたいなものがあったような気がしていた。
その話題に触れるもの怖かったから、
敢えて見て見ぬ振りをしてきた。