神楽先生には敵わない
「僕は、みちるちゃんをそういう目では見れないよ」
漸く先生と視線が合った。
眼鏡の奥にある目はいつも私を優しい眼差しで見つめていたのに、
今私に向けられている見えない声はこう囁いている気がした。
‘迷惑だ‘って。
「…やだなぁ」
泣き出してしまいそうな気持ちを何とか堪えながら、
俯きつつ笑ってみせる。
「何でそんな誤解するんですか。もう…勘違いしすぎですって」
「みちるちゃん」
「何で私が先生を好きにならないといけないんですか。変なの」
名前を呼ばれた事すら耳に入ってこないぐらい、動揺が隠しきれない。
つい数日前まで身近にいた先生の存在が、
一気に遠くになったような感覚だ。
頑張れ私。
今泣いたら逆に先生を困らせるだけだ。
無理にでも笑ってその場を凌ぐんだ。
「私にだって好きな人を選ぶぐらいの権利あるんですからねっ…」
ぎゅっと強く服を握りしめて震える心を何とか持ちこたえさせる。
じゃなきゃ今すぐにでもここから立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
「…わかりました。明日編集長に聞いて、代わりの人探してみます」