神楽先生には敵わない
平常心でありたいのに、自分の声が震えてるのが痛いほどわかる。
それは先生にだって伝わっているはずだ。
「急に悪いね。今度編集長にも僕から改めて言っておくから」
フイと私から目線を逸らしゆっくりと煙草を吸って小さく呟いた。
その態度はあからさまで、
更に私の心を追い込んでいく。
全くの別人のような姿はまるで夢の中にでもいるような感覚にさえ陥ってしまう。
この痛みすら真実だと思いたくないのに。
「先生」
「…何?」
もし先生との関係が絶たれてしまったら
こうやって話す機会も無くなってしまうだろう。
全くの他人としてこの先も交わることもなく互いの人生を歩んでいく。
でも先生と出会った事が運命だとするならば、
最後ぐらい言いたいことを言ってもバチは当たらないはずだ。
「好きです、先生の事。漫画家としても一人の男性としても」
最初はこんなダメおじさんと仕事なんてどうなる事かと思ったけど、
一緒に過ごしていくうちに漫画に対する思いとか、
内面だったり時々見せる大人の態度だったり、
その全てが悔しいけど惹かれてしまった原因だ。