神楽先生には敵わない
先生と過ごした数ヵ月はすぐになんか思い出にできないし、
神楽総一朗を好きになった気持ちも簡単には捨てられないけど、
今の私にできることは何もなかったあの頃に再び戻れるように、
時間を過ごすことだけだ―――――。
「…」
彼女が居なくなってからも僕はソファーに座ったままで動けなかった。
項垂れるように俯き、何も考えることもなく時間だけが過ぎる。
自分自身不器用なのは昔から知っていたつもりだけど、
こんなにも露骨な態度で相手に接することが難しいとは思わなかった。
何が正解なのか誰か教えて欲しい。
どうすれば傷つけず関係を終わらせる事ができるのか。
‘先生の事が好きです’
脳裏に残る言葉に、僕はこの先も翻弄されるかもしれない。
しかしここまで突き放せば彼女だって我に返る事だろう。
そして自分の気持ちに気づくはずだ。
‘好きにならなければよかった、早く忘れたい’と。
そうなるように敢えて仕向けたのだから。
「いい年したオジさんが何やってんだか」
今は仕事に没頭することが一番の特効薬だと信じて、
僕はソファーから立ち上がり、自分の部屋へと戻った。