神楽先生には敵わない

手持ちのバックからlineの着信音が聞こえてきた。

きっと椎名からの連絡かもしれないと思うも、
私は敢えて携帯を触らなかった。



「携帯鳴ってるけど、いいの?」

「…大丈夫です。多分」



そう話す相手の横顔を見るのは久しぶりだった。

でもまともに見れなくてすぐ目線を窓の外へ向けてしまう。



‘これから忘年会行くんでしょ?帰り道だから送ってあげるよ‘



と、背後からやってきた車の中から声をかけてきたのは先生だった。

こんな偶然、と思ったし先生の誘いを断る勇気もなくて、
私はそのまま車に乗り込んで会場まで送ってもらうことにした。



「先生は行かないんですか?」

「やだなぁみちるちゃん。僕の性格知ってて聞いてるの~?」

「あぁ、先生は賑やかな場所嫌いでしたね」

「パチンコ店は大好きだけどね、あはは」


相変わらずの調子のいい口調と笑顔は以前と何も変わってない。



―――――先生だ。

担当を変わってから数ヶ月顔も見てないし、声も聞いてない。


なのに一瞬であの頃の雰囲気が戻ったかのような空気感が、
私の心を熱くさせる。



ずっと、見たかった光景だったから。



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