神楽先生には敵わない
…このまま時が止まればいいと思ってしまうのは、
いけないことでしょうか。
もやもやしながら心の葛藤をしていると、あっという間に会場近くまでやってきた。
「さぁ、着いたぞ。編集長に宜しく…」
そう先生が私を横目で見ると、
私は俯いたままで少し顔色が浮かないような表情に気づく。
会場であるホテルの付近の路肩にゆっくりと止まった先生の車。
お互い数秒の沈黙のせいか、カチカチとハザードの音はやけに車内に響いた。
「ありがとうございました」
その沈黙を破った私は軽く会釈をしながら、ドアノブに手をかける。
本当はまだ一緒にいたいと思うけど、先生とは何の接点もないし、
もう担当と漫画家という関係でもない。
私がここにいる意味も理由もないんだから。
「あと少し早いですけど…、良いお年を」
先生の顔を見ながら何て言える訳もなく背を向けながら呟いた時、
いきなりガッとドアノブに手をかけた私の手を上から掴んできた。
「本当は行きたくないんでしょ?だったら行かなくていいよ」
真顔で私を見つめる先生の顔を見たのは、最後の会ったあの日以来だ。