神楽先生には敵わない

しかもこんな至近距離で見つめられれば、
更に心が大きく動揺してしまう。


「でも、先輩にも行くって伝えてあるし…」

「椎名君、だっけ?」


きっと遅刻して連絡の一つも寄越さない事にきっと怒ってるかもしれない。

先生の言葉に小さく頷くと掴まれた先生の手の力がグッと強くなった。




その強さにふと先生に目線を向けると、

私を見つめる眼差しはいつになく真剣だった。






「だったら尚更行かせない」
















胸ポケットから感じる振動音。

椎名はちょっと。と話していた相手に断りを入れると、
携帯を取り出しその場から離れ会場の外にあるフロアーに出た。


「今何処にいるんだ。さっきから連絡してたんだぞ」


少しお怒りモードの椎名に、すみません。と電話の向こうから声が聞こえてくる。

相手の声を聞いたからか高ぶっていた気持ちも少しずつ落ち着いてきて、もう会場か?と優しく呟く。


『実は今日までの締切データを入稿するのすっかり忘れてて、今会社まで戻ってきました』

「はぁ…、何やってんだよお前」

『だからこのまま仕上げていくので、そっちには行けそうもないです。本当にすみません』


初歩中の初歩である入稿を忘れるという失態に、
椎名は思わずため息をついた。


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