神楽先生には敵わない


しれっと言った言葉に驚愕する私。



ーー四十越えた大人が何言ってんのよっ!

子供じゃないんだからっ。



あまりにも驚いた私の方が顔を赤くする始末。


だが、先生は満更でもない顔をしたまま私を見上げている。




「みちるちゃんが食べさせてくれたら、風邪なんて一発で吹き飛ぶんだけどなぁ....」

「先生、私はあくまでも先生の容体を見に来ただけで....」

「風邪が長引いたらペン持てなくなっちゃうかもなぁ....そのまま寝たきりになっちゃうかもなぁ」

「あ、あの....」

「年寄りのオジサンの風邪は肺炎とか、悪い病気になりやすいんだよなぁ....はぁ....、俺そのまま拗らせて死んじゃう....読者に申し訳ない....」

「........」

「俺が死んだら今の作品は未完かぁ。編集長どう思うだろうなぁ....、悔しいな....まだまだ作品描きたかったのに....」

「あーっ、もう!わかりましたよ!わかりました....っ!!」



肩を落とし、まるで死を覚悟した抜け殻のようにブツブツと独り言を言う先生に、初めては無視していた私だったが、


明らかに担当者としての弱みにつけこまれて、挙句の果てには嫌味ったらしく作品に対する想いまでぶつけられる始末。


私は痺れを切らし渋々ながら相手の要望を受け入れることにした。




「さすが僕の担当者だね」



先ほどの暗い表情からコロッと変わって、
ニッコリ爽やか笑顔。


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