神楽先生には敵わない
「せっかく二時間粘って確変来たのになぁ…」
「二時間もいたんですか!?」
「みちるちゃんが来る一時前までに何とか終わらせようと早めに…」
「って私が来ること知っててパチンコ屋に行ったんですか!?もうー…」
駅前を出て新緑が立ち並ぶ緑道を二人で歩く。仕事場があるマンションへは十分弱の道のりだ。
基本仕事場には毎日顔を出しているせいか、既にみちるの行動が先読みされていた。
それを逆手に取って仕事場から抜け出すのは、これが初めてでは無かった。
「まぁ入稿時間までに仕上げばいいんでしょ?大丈夫大丈夫!何とかなるよ〜」
漫画家にとって締切当日は遊ぶ余裕など無く命を削って原稿に向き合ってるよ!と同僚の先輩に聞いた事があった。
だが男はそんな素振りを今まで見せた事も無いし、寧ろ外に出かける余裕さえある。
担当のみちるはこの時期になるといつ仕上がるか分からない原稿と、
男の余裕綽々な行動に頭を悩ませていて、常にやきもきしている状態だった。
寝癖なんだかパーマなんだかよくわからない無造作のミディアムウェーブヘアーに、
ノンフレーム眼鏡をかけて、鼻の下と顎に無精髭。
シワだらけのヨレヨレの白いワイシャツを羽織りジーパンを履いた服装をしている。
この怪しい人物、神楽誠一郎こそ、
今の漫画界を引っ張っているといっても過言ではない超大人気漫画家、アヤカなのだ。