神楽先生には敵わない
その表情は四十超えた大の大人とは思えない無邪気さだ。
「ホント、甘い物好きなんですね....」
「まぁ甘い物は嫌いじゃないけど、こういう場所に来ることに意味があるんだよ」
呆れた口調で言った私に先生は真顔で返すと、
横顔を見上げながら意味?と返した。
「僕の作品の読者層は殆どが十代だからさ。今の子達と同じ目線で作らないと共感もしないし面白味もないんだ」
たしかに先生の作品は皆ティーン向けの話ばかりで、
リアルな恋愛模様が読者に受けている。
担当者として先日先生の連載中の漫画を一話から読み始めたが、大人の自分でさえハラハラドキドキしてしまうほど夢中で読みあさってしまった。
漫画を普段から読まない私でさえ、
今後の展開が気になってしまう一読者になってしまったのだ。
「ああいう中高生カップルとか友達とか、人間観察をしながら、どんな話をしてるのかなとか想像してドラマみたいに話を膨らませるんだ」
先生の目線の先にあったのは、
いかにも幼さが残る男女の二人組。
まだ互いに若干の距離感を持ちながらも、
照れ合いながら会話をしている。
「まだ付き合いたてかな....。男の子は坊主だから野球部で、毎日練習をしてる姿をと近くで応援してる彼女。今日は雨だから部活が休みになって、久しぶりのデートってところかな」
「凄いですね、先生。どんどん話が膨らんでいく」
まるであたかも二人の仲を知ってる人間のように、スラスラと人間観察を始めた先生。
そのパッと閃くインスピレーションこそが、
大人気漫画家と言われる所以なのかもしれない。