神楽先生には敵わない
まぁ名前が名前だけに、
間違いなく女性が描いているという固定概念が露出を控えさせている原因かもしれない。
「あ、見て見てみちるちゃん。旨そうなケーキ屋発見!みんなに買っていこうよ」
誠一郎は常にマイペースで、
あまり自分のスタイルを変えない人だ。
普段から自由気儘に行動をしみちるの頭をいつも悩ませている。
今日のように仕事場から抜け出し遊びに行く時もあれば、
朝から晩までみっちり原稿に向き合う日もある。
しかし一度たりとも原稿が遅れて仕上がる事は無いのでこんなお出掛けもまだ許せる範囲なのかもしれない。
「ちょっ、先生…!」
緑道を歩いていればたまたま見つけたおしゃれな洋菓子店。
甘い香りに誘われるように向かう誠一郎に、
みちるはため息混じりで後を追いかけて行った。
ーーこんなハズじゃなかったのになぁ……。
思い描いていた未来とはかけ離れた生活。
みちるは心の中でそう嘆いた。
そう、それは一ヶ月前の事。
新入社員で憧れの出版社に就職出来たみちる。
激しい倍率から勝ち残り、
長い研修期間を終えた私に会社から通達されたのは、ファッション部への異動だった。
これで、ずっと夢だったファッション雑誌編集長の夢が一歩近づく。
それだけで辛かった就活が報われたような気がした。