神楽先生には敵わない
その姿はまるで…。
「先生!」
漸くみちるちゃんが僕に気づいて、笑いながら駆け寄ってきた。
「この前は原稿取りに行けなくてすみませんでした」
「最近何かと忙しそうだもんね。ドンマイドンマイ」
最近は打ち合わせも電話やラインばかりでこうやって面と向かって話すのは久しぶりだ。
僕は笑いながらみちるちゃんを労ってあげた。
「じゃまた後でな」
男性はみちるちゃんの肩をポンと叩いた後そう呟いて僕達に軽く会釈をし、その場を去って行く。
「さすがクラージュの若編集長。かっこいいですねぇ」
「クラージュ?」
「ほら、最近発行された女性向けファッション雑誌ですよ。櫻井に移動の声をかけたのも彼です」
聞き覚えのない横文字にキョトン顔した僕へ編集長が説明をしてくれた。
「…ふぅん」
___彼が声を、ね。
心の中が小さくザワつき始める。
先程の二人を見ていたせいか、
何とも言えない感情で颯爽を通路を歩く後ろ姿を眺めていた。
そんな僕を、
みちるちゃんは何処か申し訳なさ気な表情で見上げていたことなど知らずに。