神楽先生には敵わない
夜十時過ぎ、私と先輩は居酒屋を出て駅へと二人で向かって歩き始めた。
「先輩、あの、今日はご馳走様でした」
歩きながら相手を見上げ頭を下げると、ええってと笑いながら顔の前で手を振った。
「これで一つ借しが出来たな」
「は!?」
「お返しは部署異動書でいい」
いひひと昔から変わらない意地悪そうな笑みを浮かべて話す先輩に、
私はそんな急に…!とつい慌ててしまった。
「んなの嘘に決まってるだろ、気にしないでいい」
「~~~~っ!」
わしゃわしゃと私の髪を力強く撫で回す大きな手に、
堪らず顔を赤らめて黙り込んでしまった。
「…でもな?俺はみちると一緒に仕事出来たらと思って声をかけた」
クスと笑ったまま、お前だけだぞ?と私を見下ろしながら言葉を付け足す。
「他にも候補の人間はいたが、どうしてもって上司に無理を頼み込んだ。お前がこの業界にずっと憧れを持ってたこと知ってたから」
「先輩…」
「新入社員ですぐこっちに来れるんのはほんのひと握りだ。このチャンス逃したヘタしたらーーーー」
先輩の言いたいこと痛いほどわかっていた。