神楽先生には敵わない
ただでさえ大手出版社に就職できたのに、
その一番の花形部署である場所に行けるなんて、未経験でド素人の私にはまず縁のない話。
もしこのままだったら一生関わることのない夢のまた夢で終わってしまうのだ。
ーーーー♪♪♪
その時鞄に入っていた携帯の着信音が鳴り響き、
すみません、とい先輩から目線を逸らして着信を取った。
『あ、ごめんね。今大丈夫?』
電話の向こうから聞こえてきたのは先生だった。
「あ、はい。大丈夫です」
私はそう言って先輩から少し離れ背を向けて話し始めた。
その姿に先輩は口をへの字にしながらムッとした表情で私の背中を眺めている。
『あのさ今ネームに行き詰まってるんけど、見てくれないかな。みちるちゃんの意見聞きたくて』
「何時ですか?たしか…明日は九時からミーティングでそれが終わってからなら…」
頭の中で手帳のスケジュールを思い出しながら呟くと、先生はこう返してきた。
『今すぐは…ダメかな?みちるちゃんに会いたいんだ』
耳の奥まで広がる先生の甘い声に全身が一瞬で熱くなる。
「…っ、あ‥!」
それと同時に胸の鼓動が一気に早まって、思うように言葉が出てこない。