神楽先生には敵わない
突然大粒の雨が降り出したことに僕は全く気付かなかった。
いや、寧ろ知っていても連絡していたかもしれない。
彼女が無理なら此方から…、なんて。
「着替え、とりあえず置いておくよ。服はすぐ洗濯して乾燥機にかけておくから」
シャワーの音が聞こえてくる浴室に向かって声を掛けながら、
タオルが収納してある棚の上に自分のTシャツとウエストを紐で調整できるスエットを畳んで置いた。
ありがとうございますとスモークがかった扉の向こうから声が聞こえてくる。
僕は脱衣所を出て、一先ずリビングのソファーの勢いよく座り込んだ。
すぶ濡れの彼女が目の前に現れたのはついさっきの事。
あまりにも驚いてすぐに身体を拭いてやれば、そのまま風呂場へ案内した。
「ほんとに来るとはなぁ…。何だか相手に気が引けるな」
ネームの事で悩んでると言ったのは建前で、
内心はただ純粋に会いたかった。
しかしあの男性の話も一理あって、まさか来てくれるとは思ってなかったのだ。