ポーカーフェイス
~序幕~
ジャラ…
腕を軽く引っ張れば、後を追って聞こえる音。
鉄と鉄が絡まり合い、人力では解けない。
両手首に、両足首に感じる冷たさには、もう慣れた。
少しだけ瞳を閉じる。
コツ…コツ…コツ…
規則的な音が鼓膜を震わせるが、無視し深く瞳を閉じる。
コツ…コツ…
その音は、徐々にこちらへと向かってくるようだ。
冷気が流れ込む。
寒さに少しだけ身震いをすると、あの音はピタリと止まり、辺りが嫌に静まり返る。
視線を感じた。
薄っすら目を開ければ、眼前には人影。
「何?」
「いや?別に、何も?」
「そう」
短い会話。
それを終え、人影をじっと、まじまじと見つめる。
「何?」
逆に人影の方から声がした。
「いや。顔が見えないな、と思ってさ」
「顔?」
訝しげに影はそう聞いた。
「顔…か。…見たいの?」
「別に見たいって訳じゃない、けど…」
「そう。じゃぁ、特別に、キミだけに見せてあげよう」
顔の見えない影は、確かに、わらった。
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