ポーカーフェイス
兄弟
「尋ちゃん」
「…ぇ……?れ、ん…?」
幻聴。
それでも、確かに聴こえた。
懐かしい、今はもういない友人の声が。
前が滲んでよく見えないまま、尋翔は左右を見渡した。
そうだ………!!廉の所…!
いなくなった悠翔は、きっとそこにいるはず。
兄弟だからか、通じるものはあるのだろう。
ケータイをポケットに突っ込むと、スニーカーに足を突っ込みながらドアを勢いよく開けた。
バタンッとドアの音がしたのを合図に、尋翔は走り出した。
雨が降る中。
「っはっ…はっ…はっ…」
ひた走る尋翔の横を、速いスピードで車が横切り、水溜りの水を跳ねさせる。
水浸しになった足元を無視し、尋翔はひたすらに前だけを見て走った。
「ゆ、う…っと…っはぁっ…はっ…」
探し相手の名前を何度も何度も何度も何度も呟きながら、尋翔は走った。
雨が強くなる。
時刻は深夜。
外を出回る人は少ない。
それでも、雨は走る尋翔に降り続ける。
尋翔に容赦なく打ち付ける雨は、止む気配がない。
「頼むっ……っはぁっ…無事で…っは、何事もっ…なくっ…」
願いながら。
兄の無事を願いながら。
何もない事を願いながら。
尋翔は走った。