ポーカーフェイス

「でさぁ」


 呑み屋に着いたはいい。

 悠翔と廉は思った。


 コイツ、絡み酒かよ…っ!


「おい、聞いてんのかぁ?イケメンさぁ~ん」

「はいはい、聞いてるよ」

「俺、ちょっくらトイレ行って来るわ」

「ん」

「待て」


 立ち上がった悠翔の服の袖を引っ張ったのは、いつもはしっかりとネクタイを締めている弟、尋翔で。


「あ?」

「おめ、逃げるつもりじゃねぇだろな」

「あぁ?なわけねぇだろ!はよ離せ!!」

「…ふぅ~ん」


 訝しげな視線を悠翔に送ったまま、尋翔は手を離した。

 悠翔がトイレに立ってから、廉は尋翔の顔を見つめた。
 
 それに気づいた尋翔は、ニヤリと口角を上げて廉に言った。


「なぁに?女タラシ」

「はっ。昔の話を引っ張って来るなんて、Maleducatoだね。……それで?オレを呼んだワケは?」

「あぁ?…あぁ。………最近さ、」


 急に真面目な態度を取った尋翔に戸惑いながらも、廉は姿勢を正す。


「最近、悠翔が仕事の事で悩んでてさ」

「仕事?」

「あぁ。…あいつ、仕事頼まれると断れないタイプらしい。てんてこ舞いだ」

「嬉しい事じゃないか」

「だよ。でも、あいつ、自身の体の事全くと言っていい程考えてねぇんだよ」


 残り少ないチューハイが入ったグラスを、尋翔は傾けた。


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