先生と私と元彼と。
第十話†夕飯を共に
とりあえず、母さんと
私たちの部屋に向かい
舷に仲直りをした
話しをしたら喜んでくれた。

「改めて、
椛の母の坂部梢です」

『紙畝地舷です』

二人が挨拶するのを
傍らで黙った見ていた。

「それでですね、
夕飯を私たちの家族と
椛と紙畝地さんの五人で
どうかとさっき話してたんです」

本題に入ると、舷は
真っ先に私を見た。

『お前がいいなら
俺は何も言わないさ』

やっぱりね。

舷は私が言えば
駄目だとは言わない。

「よかったわ。

なら、私たちの
部屋で食べましょう」

今にも、私たちを
引っ張って行きそうな
母さんを一旦、止めた。

『ちょっと母さん、
いきなり行ったら
二人が吃驚(びっくり)するよ』

大丈夫よなんて言いながら
私たちを急かした。

なるようになるか。

母さんたちの部屋は
私たちの部屋の二つ隣りだった。

何の前触れもなく
襖を開けた母さん。

黙ったままというのは
なんだか失礼なので
とりあえず、
自己紹介をした。

『彼女の娘の糸納椛で、
隣に居るのが恋人の
紙畝地舷です。

宜しくお願いします。』

驚かれるかと
内心ヒヤヒヤしていたが
彼はあっさりと
私たちを招き入れた。

「僕は坂部真紘、
隣に居るのが
娘の千依です。

どうぞ宜しくね」

親父とは違い、
穏やかで
優しそうな人でよかった。

「夕飯をね、
皆で食べようと思って
二人を連れて来たのよ」

坂部さんと母さんが
話していると、
千依ちゃんが私に近付いて来た。

『こんばんは』

屈んで千依ちゃんと
同じ目線で話し掛けた。

「こんばんは」

拙い言葉で返してくれた。

『お姉ちゃんは
糸納椛っていいます。

お名前は?』

「さかべちい、さんさいです」

小さな指で三を作りながら
元気よく応えてくれた。

『ちいちゃんかぁ、よろしくね』

腕を広げると
抱き着いてくれて嬉しかった。

娘二人のやり取りが
嬉しかったのか、母さんが
私たちを抱きしめた。

「おい梢、
あんまり抱きしめたら
二人が苦しいだろう」

あまりにも強く
抱きしめるから
坂部さんが見兼ねて
引きはがしてくれた。

『ありがとうございます』

実際、苦しかったから
助かった……

千依ちゃんが
離れないから
舷と私の間に座らせた。

「紙畝地さん、椛さん
何だかすみません」

『いえ、いいんですよ』

応えたのは舷だ。

「仲居さんに
言ってくるから四人で話しててね」

私たちが何か言う前に
部屋を出て行ってしまった。

全く、しょうがないなぁ……

『坂部さん、
母さんとは何処で?』

先に口を開いたのは私だった。

「真紘で大丈夫ですよ。

紙畝地さん、椛さん」

年上の人に敬語で
話されるとなんだかむず痒い。

『あの、真紘さん
私は母さんの
娘ですし、舷は多分、
同い年くらいだと思うので
敬語やめませんか?』

私たちの会話を
じーっと千依ちゃんは聞いてる。

三歳とは思えないくらい
大人しい子供だなぁ。

性格まで真紘さんに
似たのだろうか?

あっ、でも、
目元は母さん似かな?

『椛のいう通り、敬語はなしで』

こういう時、舷はすぐに
ノッてくれるから好きだ。

「わかった」

了承してくれてよかった。

『母さん、遅いですね』

千依ちゃんにも
遅いねぇと言うと
ねぇと返ってきた。

可愛い。可愛すぎる。

女の子だからだろうか?

それとも、真紘さんが
いい人だかだろうか?

義弟は憎たらしいだけなのに。

よく考えたら、
母さんより親父の方が
憎たらしかった。

「ただいま」

考えてたら、
母さんが戻って来た。

『おかえり、遅かったね』

「うん、ちょっとね」

こうして、
不思議なメンツで夕飯を
食べた後、
千依ちゃんが寝てから
会えなかった分を
補うように
私と母さんは話した。

母さんたちの出会い、
私の元彼のストーカー事件、
舷と付き合ったきっかけ等々。
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