先生と私と元彼と。
第十三話†文化祭
十月になり、
文化祭の出し物の話し合いが始まった。

私は学校行事が好きじゃない。

理由は言わずもがな。

物心ついた頃に
母親は居なかったし、
親父は仕事仕事で
そういったものに来た試しがない。

今年は舷がいるから少しは楽しみだけど。

担任でもある、舷と
出し物を考えるのは楽しい。

『椛は何か
やりたいものあるか?』

そう言われても、
私は何でもいいわけで……

『特にない』
としか言えない。

『担任として舷は
何かやりたいものはないの?』

キレなければ基本
適当なのが舷だ。

年配の先生の中には
そんなん舷を
よく思ってない人もいる。

(ただし、鷹箸先生は別)

『ないな』

そうだと思った。

そんなこんなで
文化祭の出し物は
お化け屋敷に決まり、
私は裏方を希望した。

翌日から、居残って準備を開始した。

「お疲れ‼」

後ろから、声を
かけて来たのは、青沢さんだった。

サバサバしていて、
一見キツそうだけど
本当は気配りが
できる優しい人だと知っている。

『ぅゎぁ、吃驚した』

「ぁはは、ごめんごめん」

二人で話していると、
今度は、駒場君が来た。

「ぁ、カズもお疲れ」

名前で呼んでるんだ。

「ぉぅ、ほい」

手渡されたのは、
お茶とミルクティ―。

迷いなく、青沢さんに
ミルクティ―を渡した所を見ると
普段から好みを知っていたんだろう。

『ありがとう』

休憩することにしてた。

「あんまり、話したことないな」

ふと、駒場君が言った。

確かに、このメンバーで話すのは初めてだ。

『そうだね』

駒場君は、クラスの人気者。

威張ったり、自慢したりせず
私みたいなクラスで
浮いてるような奴でも
こうして、お茶を買って来て
くれたりする。

『青沢さんと仲いいんだね』

何気なく言った言葉に
二人はテレた顔をした。

ん? この反応は、もしかして……

お互いに気付いていないパターンだよね。

可愛いなぁ。

「じゃぁ今度、買いに
行くときは聞くから
糸納の好み教えてくれ」

駒場君の人気の
秘密はこれなのかも。

『ありがとう』

三人で作業を開始して、
終わったら、外は
真っ暗だった……

「ぅゎぁ、
もうこんな時間だったんだね」

青沢さんが
外を見て、ウンザリした顔をした。

「二人とも、送ってくよ」

え?

『私はいいから、
青沢さんだけ送ってあげて』

舷のマンションまで
そんなに遠くないし
電車だからなぁ。

「何言ってんだよ、
女をこんな時間に
一人で帰せるわけないだろう」

優しいなぁ。

「送ってもらおうよ」

青沢さんが私の手を握って
ね? と言って来た。

『え~と、
じゃぁ、駅までお願いします。』

なんとなく、敬語になってしまった。

「何で、敬語なんだよ」

駒場君が可笑しそうに笑った。

『え、なんとなくかな』

「ダチに敬語はなしな」

私のこと、友達だって
言ってくれるんだ……

「あたしだって、
糸納さんの友達だもん」

青沢さん……

嬉しいな。

友達が二人も出来た。

『あのさぁ、
二人のこと
名前で呼んでもいいかなぁ?』

図々しかったかな……

「いいな、そうするか♪」

青沢さんも賛成してくれて
私達は名前で呼ぶことになった。

『宜しくね。

芹葉、一雅君』

「何で、俺だけ君なんだよ」

君付けが気に入らなかったらしい。

「何拗ねてんのよ」

芹葉が一雅君をこずいた。

『ごめん、彼氏以外の
男の人を呼び捨てに
したことがなかったから……』

「椛、彼氏いるの!?

いいなぁ、あたしも彼氏欲しいよ」

まさか、二人とも
担任だとは思ってないだろなぁ。

「ねぇ、誰?」

芹葉が聞いて来た。

「俺も知りたい」

一雅君まで……

「とりあえず、二人とも帰るぞ」

私達は教室の
電気を消して学校を出た。

こうして、三人で帰ることになった。

「で、彼氏って誰?」

言っていいんだろうか?

「学校の奴?」

間違ってはないけど……

『うん……

彼氏に訊いてみる』

とりあえず、舷に聞こう。

メールを送ると直ぐに返って来た。

『いいんじゃないか』って
軽いって言うか、なんて言うか……

まぁ、舷らしいか。

『彼氏がいいって
言って来たから教えるね。

紙畝地先生なんだ……』

ぁ、やっぱり固まっちゃったか。

吃驚するどころじゃないよね……

「経緯を詳しく‼」

流石女子と言うべきか、
先に復活したのは芹葉だった。

「長くなるよ?」

元彼の話しから
しなくちゃならないから
結構長くなると思うんだよね。

「じゃぁ、何処か寄ってこうよ」

学校の近くにある、
小さな公園に寄ることになった。

「これでゆっくりと話せるね」

何か芹葉のペースに
乗せられてるような……?

まぁ、いいか。

私は、話し始めた。

★元彼にストーカーされてたこと

★逃げてる所に
たまたま舷が居合わせこと

★最初はお互いに
好きじゃなかったこと等。

「大変だったんだね」

芹葉がギュッと
私を抱きしめた。

自分の事のように
二人とも怒ってくれた。

「でもまさか、
紙畝地だとは思ってなかった」

予想すらしてなかったよね……

「今、幸せか?」

その質問に私は笑って頷いた。

「そうか。

ヤベッ、セリん家の門限過ぎちまうな」

公園の時計を見て、一雅君が慌てた。

少し走って、
何とか芹葉ん家の門限に間に合った。

「二人とも、今日はありがとう」

芹葉が中に入ったのを
確認して、一雅君に
駅まで送ってもらった。

「なぁ、 紙畝地って
家でどんな感じなんだ?」

やっぱり、気になるよね。

学校では、
適当でよっぽどじゃなきゃ
キレたりしないし、
どっちかと言うとフレンドリーな所がある。

『あんまり変わらないよ』

まぁ、寝顔は
少しカワイイと思うけど……


それは秘密だ。

駅に着いたものの、
一雅君と話してたら舷からメールが来た。

[駒場はまだ、一緒か?

晩御飯食ってくか訊いとけ]

相変わらず緩いんだから。

『一雅君、舷が
晩ごはん食べてくか?

だってさ、どうする?』

「いいのか?」


『五駅くらい先なんだけど大丈夫?』

一雅君ん家が
平気なら、 私はいいんだけど……

『私は全然いいよ』

まぁ、今から作るから
少々時間がかかるけどね。

「家に電話してみる」

そう言って、鞄から
携帯を出して、私の 隣で
電話を掛けだした。

二分程で電話は終わった。

「母さんが紙畝地に
宜しく言っといてだとさ」

じゃぁ、何時もより
沢山作らなきゃだね。

『私が作るから
一雅君の口に合うか
わからないけど、一生懸命作るね』

舷以外の人に
手料理を出す日が来るとは
夢も思ってなかった……

三十分後、舷が
帰って来て、三人で夕飯を食べた。

『どうだ?

作業は進んでいるか?』

文化祭の準備の
確認をしているらしい。

このペースで行けば、
何とか間に合うだろう。

「順調だよ」

めんどくさそうに一雅君が答えた。

翌日、一雅君が芹葉に
昨日、私の家に寄ったことを
言うと頬を膨らまして
怒った仕草をした。

「ずるい‼

今度は、あたしも行きたい」

舷なら、駄目とは言わないだろう。

『わかった。

今度は芹葉も招待するね』

そんな約束をした
数日後、文化祭が始まった。

親父には教えていない。

母さんは明日の一般公開の時に
真紘さんと千依を
連れて来ると言っていた。

皆に会うのは久しぶりだなぁ。

**翌日**

「椛」

母さんたちが来てくれた。

『いらっしゃい』

「お姉ちゃん」

私を見つけた千依が
勢いよく走って来て
母さんと真紘さんが
あっという顔をした時に、
よろめいた私を舷が
支えてくれて、転ばずに済んだ。

『ありがとうございます』


ふざけて、敬語でお礼を言ってみた。

横で見ていた
二人は笑うのを耐えていた。

気持ちはわかるけどね。

千依には、母さんたちが
何で笑うのを耐えているのか
わからないだろうなぁ。

「なんか、
本格的なお化け屋敷ねぇ」

母さんがセットを見て
感心したように言った。

『頑張って作ったからね』

腰に手をあてて
威張ったポーズをした。

『芹葉、一雅君』

少し離れた場所で
接客していた二人を呼んだ。

「椛 、呼んだか?」

一雅君が芹葉を連れて
私たちの方に来た。

『うん、呼んだ。

紹介しとこうと思ってね』

前に家庭事情は話してあった。

GWに母さんたち会ったことも。

「初めまして、
椛の友人で駒場一雅といいます。

で、隣にいるのが青沢芹葉です」

二人で母さんたちにお辞儀をした。

「あら、宜しくね」

母さんに返事をして、
目線を千依に合わせて挨拶した。

「こんにちは」

芹葉が笑顔で挨拶した。

「こんにちは」

私にしがみついたまま
二人に挨拶した。

夕方には母さんたちも帰り、
後夜祭も終えて
二日間の文化祭は終わった。
< 16 / 17 >

この作品をシェア

pagetop