先生と私と元彼と。
第二話†引っ越し
きっかり五時で部活を終わらせた
舷と家に寄り、必要な物と
お気に入りの小説を十冊程を
鞄に詰め家の鍵を閉め、
舷の家へ向かった。

小説は読み終わったら
また取りに来ればいい。

『お待たせ』

荷物をトランクに積み、助手席に座った。

『あれだけでいいのか?』

少ない荷物に舷が聞いてきた。

『とりあえずね。

小説は読み終わったら
違うの取りに来るし』

大丈夫だと告げると車を発進させた。

『親父には言ったのか?』

こういうところはやっぱり教師だよね。

『メールだけしたよ』

私が家を空けたところで
気にしないだろう。

その返事が来たのは
やっぱりというか、
予想通り、夜中だった。

「迷惑かけるなよ」と
書いてあるだけで
それを舷に見せると、
怪訝な顔をされた。

『お前、なんてメールしたんだ?』

『当分、
彼氏ん家にいるから家空けるよ、って』

本当はメールさえしなくてよかったけど
後々めんどくさいことになるのは
避けたいからしたただけだ。

『娘が男の家に行く
っていうのにそれだけか?』

呆れたよなバカにしたような
口調で舷が言った。

正論ではあるけどね。

普通の父親なら
年頃の娘が彼氏ん家に
行くなんて言ったら怒るんだろうな。

『そういう人なんだよ』

返信することもないから
そのまま携帯を閉じた。

『寝ようよ』

今日はなんだか疲れたなぁ。

元彼に追い掛けらたり
舷の家に引っ越したり
色々あったなぁと思いながら
隣に居る舷に「おやすみ」と
言って眠った。

舷の家にも慣れて来た
ある休日にそれは起きた。

たまたま、行ったスーパーで
父親と愛人、そして義弟が
仲良く買い物をしている所を
見てしまったのだ。

はぁ~
あの人たちが
いなくなったら野菜コーナーに行こう。

お刺身を選ぶ振りをしながら
三人の様子を窺う。

早く行かないかなぁ。

内心イライラし始めた時携帯が鳴った。

ディスプレイには“舷”と
表示されていた。

『もしもし』

多分聞こえないだろうと
思って電話に出た。

『今何処だ?』

『近くのスーパーだから
もう少ししたら帰るよ』

電話を切って携帯を
パーカーのポケットに戻して
野菜コーナーの方を見ると三人はいなかった。

目当ての野菜を
カゴに入れ、レジに向かった。

『ただいま』

玄関を開けて、
リビングに行くと
舷は機嫌が悪かった。

『何をそんなに怒ってるの?』

電話を切ってから
まだ三十分も経っていない。

『椛、辛い時は
辛いって言えよ
俺はお前の彼氏だろう』

私が辛そう?

舷にはそう見えるの?

『自分じゃ
気づいてないだろうけど
泣きそうな顔してるぞ』

そう言われた瞬間、
私の目から涙が流れた。

ドサッと買い物袋が落ちたけど
割れる物は入ってないから
後でいいや。

『ほら、言った通りだろう?』

親指で涙を拭った後
ギュッと抱きしめた。

頭では解ってたはずだった。

あの家に一人で
居ることは当たり前で
親父が帰って
来ないのも当たり前。

物心ついた頃にお母さんが
いないのも当たり前だった。

だけど、本当は寂しかった……

でも言える人はいなかったし
人前では決して泣かなかった。

なのに、舷に一言
言われただけで涙が零れてた。

『舷』

拭ってくれた涙が再び流れる。

『あんまり泣くと目が腫れるぞ?』

今度は優しくキスしてくれた。

唇を離すと私の手を引いて
ソファーまで連れて来た。

『何があった?』

さっきあったことを話した。

『そっか、よく我慢したな』

偉い偉いと
私の頭を撫でてくれた。

こんな風に頭を
撫でられたのも久しぶりで
なんだか擽ったかった。

『舷、ありがとう』

涙はとまってたけど
甘えたくて、舷に抱き着いた。
< 5 / 17 >

この作品をシェア

pagetop