コーラとポップコーン
コーラとポップコーン
金曜日の夕暮れに、コツコツとヒールの音を鳴らして会社から外に出る。
会社の外の歩道に並ぶ桜は、今年も綺麗に咲き誇っている。
今年も綺麗だ。
このビジネス街で唯一の和み要素な気もする。
ちらちらと舞い落ちる桜の花びらに、ふと手を差し伸べるが、揺れる花びらは私の手の中には落ちて来なかった。
思わずふっと鼻で笑ってしまったのは、花びらすらも私の手の中に来てくれないのか…という自嘲。
まあ、いいや。やっと今日の仕事が終わったんだから。
これで明日は土日で休みだし、休みを目一杯漫喫するぞ!
グッと両手を上にあげ背を伸ばす。
道路を挟んだ向かいのビルの前から聞こえて来る
「久米!悪いが、書類の失敗があったから残業頼む!」
「あっ、分かりました」
という会話。
上司らしい眼鏡を掛けたおじさんが、今しがた帰宅しようとしていた若い男性に声を掛けたのだ。
若い男性って言っても多分私と同じ位で、25歳位な感じもするが。
それにしても、この時間に、しかも金曜日に残業頼まれるなんて、あの人も不憫だ。
私なら絶対嫌!
まあ、それでも上司の頼みを断るなんて事、出来っこ無いんだけど。
ビルの中へと再び戻っていく彼等に向けていた視線を前に戻すと、止めていた足を動かし始めた。
ゆっくりと歩を進めるのは、明日が休みだから。
時間はまだまだあるという気持ちのゆとり具合からだと思う。