1000の雫
「おねーちゃーん、おねーちゃんってば!!!」
「っは!!!」
ガバッと起きるとベットの端にはいつの間にか帰ってきていた小学生の妹がいて、頬っぺたを可愛く膨らませていた。
「あれ?花澄?」
「あれ、じゃないよーっもうごはん食べるじかんだよー。だからかすみおねーちゃん呼びにきたんだよっ」
小学生になりたてで、まだあどけない話し方でこれまでの経緯を聞き翠はふっと笑いごめんねと謝る。
「なんかいつの間にか寝てたみたい。いこっか、」
「うん!きょうはカレーでしょ?きょうこねぇちゃんとあおい君もうきてるよー」
そう言うと、花澄は階段を早足で降りていった。
「え゛?呼んでないのにもうきてんの?」
若干友人達に呆れつつ、妹を追いかけるように階段を下りた。
「おっそーい!もう何寝てんのよー!」
「もうお前の分用意してるんだぞー」
翠が降りてきたのを確認した、香子と葵は不満をあらげた。
「いや、橙が用意したんだけどね。」
「中3になってから突っ込み厳しいよね。李月ちゃん…」
「「あおいくんがうそつくからだよ」」
「やっぱ、双子はハモるのね」
香子は双子の花澄みと橙をみてしみじみと言った。
今日も騒がしい夕飯になりそうだなぁ
と思いつつ自分の席であるだろうテーブルに移動すると、
なぜか自分の横にもう1つ余分にカレーの入った皿があった。
「あれ?いっこ多くない?」
と皆に向かっていうと、
一瞬時がとまったようにしんとなったが
ぷっと笑いをこらえきれず香子が笑った。
「あははっもー何いってんのよー、また喧嘩でもしたの?」
「え?」
「あーあ、シカトされてんぞー。まあ、俺はそれでいいと思うけどなー。」
なぜか葵は台所に向かって話している。
「は?」
香子と葵の意味不明な会話に困惑していると、
「葵…、お前あまりそう言うこと言わねーほうがいいぞ。痛いから」
と、台所から皆の分のコップと麦茶の入ったピッチャーを持って…
ブロンドの髪が目立つあの少年がこちらへ向かってきた。
-夢だと思ってたのに…何で…-
すっと翠の横に座り皆にコップを配り始めた。
まわりの皆が談笑しながら食事を進める中、翠だけフリーズしていた。
それは1つだけ不可思議なことが起きているからだった。
-何でみんなと馴染んでるの?こいつ…-
顔を険しくこちらを見ていることに気付いた満和は翠にしか聞こえないようにひそひそと話し始めた。
「さっきオーナーの佐和さんと話した結果こうしたほうが早く探せるんじゃないかってことになったから…よろしくっ」
「何それ!?」
翠もつられてひそひそ声で反論する。
「あ、ちなみに俺、遠い親戚でお前の学校に通う為に居候してることになってるから」
「は!?」
「まっそうゆうことで、クレーム言うなよ。これも早く元に戻るためだ。」
翠に文句を言われないようにか、もっともらしい事を言う満和をみてあることを思い出す。
「…あっそー。そうねっいちばん早く戻れた方がいいのはあんたの方かもよ。」
「はぁ?それはお互いさまだろっ!!!ーーー!!!」
満和が言い切る前に翠はぎゅーっと左手をにぎると、
満和は床に突っ伏した。
「ーーっ!何なんだこの音!」
翠は手を緩めた。すると落ち着いたのか、満和はゆっくり起き上がり、こちらを不思議そうな顔をしてみた。
左手をひらひらしながら、翠はふっと笑いひそひそと話しはじめた。
「この指輪をはめてる手を握るとあんたにしか聞かない音が聴こえるらしいんだけど、どうだった?」
「なんっじゃそれ!?めっちゃきつい音だったぞ!というか外せ!そんな物騒なもん」
外そうと満和は翠の手を掴もうとするが逃げられる。
「嫌よー。佐和さんって人から貰ったものだし…それに私以外は外せないみたいよ」
「っはーー!?あの人とんでもないもん渡しやがって」
「ちなみにあんたんとこのストーカー撃退グッツみたいよ。これ」
「誰がストーカーだっ!おまえはそんなの無くても充分強いんだから大丈夫だろ」
「にぎるわよ」
「前言撤回します。」
なぜかすいません。と翠に向かい土下座をし始めた満和の姿をまた何かやらかしたのかと誰も突っ込まないなか、葵だけは暴れだした。
「お前らー!!親戚同士だからって近すぎるぞ!もっと離れろ!」
「はー?何ばかなこといってんの?葵?」
「たくっ簡単に離れられたら苦労しねーよ」
「本当よ!」
「なっ!!!」
その台詞を葵が別の意味でとらえショックを受けているのをよそに
ふたりは続けた。
「あーあ、あほらしっ。冷めないうちにカレー食べちゃお」
「俺も」
「葵…ドンマイ」
様子をみていた香子は半笑いでぽんと葵の肩に手をおいた。
「な、何がだよっ」
半泣きの葵は香子の言葉に反抗するようににらみながら言うと、今度は次女の李月が口をひらいた。
「葵、諦めなよ」
冷めた目で葵を見ながら追い討ちをかけると、香子は爆笑しはじめた。
「香子さん、笑いすぎ」
「なんで俺と満和だけ呼びすてなのいつも」
「え?俺もなの?」
「だって同じ感じだからね。」
「同じって?」
翠は淡々としゃべる妹に意味をきいた。
「馬鹿なとこ。」
「「はぁーーーー!?」」
騒々しく夕飯が進む中、
誘われたかのように、近づいてきた影を
まだ満和と翠は知らない。