縁の桜
「緻密で精巧過ぎる人形は、その出来映えの匠さゆえに凄まじい狂気と畏怖と欲を産み、大惨事を招いた」

父は、そう言い わたしを逃がして火の海の中でもがき苦しみながら亡くなった……。


藍の目に涙が滲んだ。


もし、徳川家茂の一行が里を訪れたりしなければ何も失わなかった。

まさか今更、家茂のからくり人形を操ることになるとは思わなかった。

藍の胸に沸々と言い知れない怒りが込み上げる。



満開の桜──。
あの日も桜がみごとに咲いていた。

川岸の桜並木が漆黒に映え薄紅色の花が忘れられない惨劇を 藍にまざまざと思い出させる。

藍の黒髪に風に舞う淡い桜の花弁が絡み付く。



< 10 / 16 >

この作品をシェア

pagetop