縁の桜
『が、今はダメ。龍斗を巻き込むわけにはいかない』


風に煽られ火の粉が激しくなる。舞い込んだ桜の花弁と火の粉を幾つも払う。


春先の川の水は、まだ冷たい。

だが、他に逃げる方法を思い付かない。

藍は川に身を躍らせ、岸へ向かって泳いだ。

徳川への怒りなど頭になかった。

生きなければ……逃げなければ!

逃げ惑う侍や女中の声に混じり、龍斗の叫び声が微かに聞こえる。


夜風に漂い流されながら船の炎は、更に激しく燃え盛る。

岸辺を沿うように咲く桜並木から風に吹かれて桜の花弁が舞い込んでは炎の中に消えていく。

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