縁の桜
──龍斗

藍は思わず、声をあげそうになった。
熱く、「俺の花火を咲かせてやる」と語った真っ直ぐな瞳を思い出す。


気が付くと御座船が、ゆっくりと龍斗の正面辺りを横切ろうとしていた。

藍は、家茂のからくり人形を操る手を休めることはできない。

こちらに向かって何かをしきりに叫んでいる龍斗の姿、彼は両手を千切れんばかりに振っている。

藍は、御座船の上で ただ静かに微笑みを返す。


「弁天屋、龍斗はここだ!!」

藍の耳に龍斗の言葉が、ただそれだけ はっきりと届いた。

この人形がなかったなら。
この人形さえなかったなら、こんな御座船に乗ってなどいなかったのに……。
あんなに辛くて悲惨で恐ろしい思いもしなかったのに。

藍は8年前、里に起きた惨事を思い返す。

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