先輩上司と秘密の部屋で
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柔らかい春の日差しが窓から降り注ぐ中、真新しいダークグレーのリクルートスーツに身を包んだ杏奈は、必死にあくびを堪えている。
硬いソファーでは熟睡することが出来ず、身体のあちこちが悲鳴をあげていた。
小白川杏奈(こじらかわあんな)は、この春大学を卒業したばかりの二十三歳。
どうやらこの大手化粧品会社に採用されたことで、一生分の運を使い果たしてしまったらしい。
なぜならせっかく就職出来たというのにもかかわらず、杏奈は昨日からホームレス生活を余儀なくされている。
しかもたいして貯金もなく、最初の給料が入るまでの一ヶ月間、少ない手持ちの現金で生活していかなければならい状態だった。
こんなことになるなら、調子に乗って友達とグアムに卒業旅行なんて行かなきゃ良かったと、杏奈は激しく後悔する。
多くの新入社員がこれからの生活に胸を期待で膨らませるこの場の中、杏奈だけが絶望に打ちひしがれていた。