先輩上司と秘密の部屋で
隼人はまるでどこかの王子様のように恭しく振る舞い、杏奈をエスコートしようとする。
その瞬間頬を染めながら笑顔を浮かべていた受付嬢の顔は凍りつき、周りに居た数人の女子社員が眉間に皺を寄せていた。
嵐士と隼人は営業部の二大エースで未婚にもかかわらず、入社してから現在に至るまで浮いた噂のひとつもない。
それが何故、見ず知らずの女と手を繋いで一緒に出社しているのか。
ハンター達の嫉妬渦巻くどす黒い視線は、容赦なく元凶である杏奈のもとに集中していた。
「……ちょっと、こういう事、ほんとやめてってば」
「いいから。何照れてるの。早くおいで」
杏奈が本気で訴えているのに、隼人は全く取り合おうとしない。
まるで周りへ見せつけるようにロビーのど真ん中を堂々と進んでいくから、杏奈はますます多くの人の目に晒されてしまった。
ただでさえ女の人を振りまくっているのだから、これ以上敵を増やすようなことはしないでほしい。
高校の時の二の舞にはなりたくないと思い、杏奈が声を張り上げようとしたその時――。
「……おに……」
「隼人。お前、妹だからって甘やかしすぎだ」