先輩上司と秘密の部屋で
突然こちらを振り返った嵐士から、杏奈は目が離せなくなる。
正面から見る彼のスーツ姿はやはり秀逸で、条件反射のように胸が高鳴ってしまった。
「小白川くんの妹だって」
「なんだぁ。よかった」
それまで殺気立った視線を向けていた女性社員たちが、皆胸を撫で下ろしながら安堵の表情を浮かべている。
どうやら杏奈は、敵とはみなされなくなったらしい。
結果的に嵐士のおかげで、周囲にいらぬ誤解を与えずに済んでしまった。
「隼人、もっと場所を考えて行動しろ」
「……考えてるし」
嵐士に苦言を呈され、隼人は渋々ながら杏奈の手を離す。
杏奈がホッとしたような表情を浮かべていると、嵐士といきなり視線がかち合ってしまった。
「……あ、」
お礼を言うべきか一瞬躊躇ったせいで、杏奈はそのチャンスを逃してしまう。
すぐに踵を返した嵐士は、さっさとひとりでエレベーターホールの方に向かって行ってしまった。