先輩上司と秘密の部屋で
休憩を挟んで新入社員向けのオリエンテーションが始まると、杏奈は少しだけ落ち着きの心を取り戻していた。
この会社は経理や総務をなどの事務部、薬事法に基づき化粧品の開発や研究を行う開発部、パッケージや広告を担当する広報部門、市場調査を担当するマーケティング部など、大小ありとあらゆる部署が存在し、化粧品会社と言えどもかなり大規模な事業を展開している。
特に営業部はトップクラスのエリートが揃っていて、社員の競争も激しく、いくら希望しても、入社試験でトップの成績を納めた一部の人間しか配属されない仕組みになっているのだ。
上司にその説明を受けながら、杏奈は静かに安堵のため息をついていた。
きっと一番地味な庶務あたりに配属される。このまま目立たず騒がず、ひっそりとOL生活に勤しんでいこう。
そう決意した杏奈だが、配られた配属先のリストを受け取った瞬間、頭を思い切り殴られたような衝撃が走る。
「な、なんでっ……!?」
周りの目も憚らず声をあげてしまったことで、杏奈は好奇な視線を集めていた。
何の因果があって……と考えるだけで気が遠のきそうになる。
営業部のところに“小白川杏奈”と名前が記されているその紙を、杏奈は思わずくしゃりと握り潰していた。