先輩上司と秘密の部屋で
「小白川杏奈です。……ご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いします」
杏奈は苗字の部分だけを出来る限り小さい声で言ったが、すでに先ほど部長からも紹介されているのでほとんど意味はない。
営業部に配属された新入社員は、ここにいるたったの二名。あまりにも広いオフィスに、杏奈は目眩を覚えていた。
これから一緒に働く事になる同僚の数は、およそ五十をくだらない。
その多くは精悍な顔つきの男性社員たちばかりで、営業事務やアシスタントを担当する女性社員は、本当にほんの数人程度しか見受けられなかった。
運がいいのか悪いのか、隼人の姿はどこにも見当たらない。
本当にここでやっていけるのだろうかという不安が、杏奈の心の中にずっとつきまとっていた。
「ねぇ、小白川さん」
朝のミーティングが終わって案内された自分のデスクで縮こまっていた杏奈は、後ろから声をかけられてぱっと振り返る。
そこにいたのは見知らぬ女性社員で、杏奈はなんとなく身構えてしまった。
「小白川さんて、隼人くんとどういう関係なの?」