先輩上司と秘密の部屋で
「あの、ごめんね小白川さん。この人全然デリカシーなくって」
「……いえ」
誓ってそんなことはない……はず。
役職もないただの一社員である兄が、人事部を動かせるはずはない。
完全に無表情になってしまった杏奈に向かって、門倉の代わりに女性社員が頭を下げる。
「そういえば、自己紹介もしてなかったね。私は香月美那(こうづきみな)。あなたの二年先輩」
「よろしくお願いします」
杏奈は美那だけに頭を下げると、その美しい姿を食い入るように見つめていた。
長い上に美脚で、背もスラリと高い。憧れを具現化したような美那のスタイルに、杏奈は羨望の思いを抱かずにいられなかった。
大人の女を目指しても、見た目は子供のままでちっとも成長してくれない。
どうすることも出来ないその事実に、杏奈は今まで何度も自分の外見を呪ってきた。
「……で、さっきの質問なんだけど……」
「普通に妹とかじゃないの? うーんでも……全然似てないね」
何気ない門倉の一言が、塞がりかけていた心の傷にくい込んでくる。
その言葉は聞きたくない。
取り乱しそうになった杏奈の前を、よく見知った後ろ姿が悠然と遮っていた。
「ねぇ、二人とも。杏奈は俺の大事な子だから、あんまりいじめないでほしいなー」