先輩上司と秘密の部屋で
「あら、隼人くん。ずいぶんゆっくり出勤してきたのね」
「大事なって……え? えっ?」
美那と門倉の声が重なった瞬間、杏奈は二週間ぶりに、その美丈夫な姿を目の当たりにする。
柔らかくセットされた栗色の髪に、毛穴ひとつ見当たらない滑らかな肌。
目鼻立ちもはっきりしていて、その甘いマスクは周りの人々を魅了し続けている。
幼少期から“王子”と呼ばれもてはやされ続けてきた隼人は、文句のつけようがない素敵な大人の男に成長を遂げていた。
「ああ、今日に限って朝一で商談が入ってたから。でも……なんとか間に合ったみたいで、本当に良かった」
「おい小白川。まさかこの子って……」
神妙な面持ちの門倉が、遠慮がちに隼人のことを見つめている。
隼人は杏奈の方に視線を移すと、とてつもなく嬉しそうに微笑みかけていた。
(怒ってないの? てっきりもう、許してくれないと思ってたのに……)
杏奈は心の中で、ひたすら後悔の念を募らせる。
やっぱり隼人だけは、何があっても自分の味方でいてくれる。
隼人の心の広さに感激してしまった杏奈は、人目を憚らず大好きな兄の胸の中に飛び込みたくなってしまった。