先輩上司と秘密の部屋で

「妹……? え……と、義理とかじゃなくて……?」

「正真正銘、私は小白川隼人の実の妹です」


門倉に向かって淀みなく答えながら、余計なことばかりする隼人をキッと睨みつける。

杏奈は父親似で顔立ちが幼く、隼人は日本美人な母親似だ。だから全くと言っていいほど、ふたりの容姿は似ていない。

高校時代のいじめも、実はそのことを起因とするものだった。

血の繋がっていない義理の兄妹だとまことしやかな噂が広がってしまったせいで、杏奈は散々ひどい目にあってきたのだ。

それに加えて、隼人のシスコンレベルは尋常ではない。

極度の心配性である隼人は、杏奈に変な男が近づかないように、時折彼氏や配偶者のふりをしようとする。

幼い頃に約束した“お兄ちゃんと結婚する”という言葉を、未だに信じているのかもしれない。

杏奈はたまに、本気で心配になることがあった。さすがの両親も、ちょっと引いてしまうくらいの溺愛ぶりだ。

本当にこれさえなければ、かっこよくて優しくて自慢の兄である。

嘘がバレても隣で平然としている隼人に向かって、杏奈は聞えよがしに大きなため息をついていた。


「冗談だよ、杏奈。そんなに怒らないで」


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