先輩上司と秘密の部屋で
「……誰」
それ私のセリフ、と思わずツッコミそうになり、杏奈は思わず目を瞠ってしまう。
そこにいたのは、高校で兄と人気を二分にしている、あまりにも有名な人物。
黒谷嵐士(くろたにあらし)は、噂に違わず、恐ろしい程美形の男だった。
普段兄の完璧すぎる容姿を目の当たりにしている杏奈は、普通の人よりもかなり目が肥えてしまっている。
それにも関わらず、嵐士は杏奈が言葉を失ってしまうほどの輝きと異彩を放っていた。
「ああ、隼人(はやと)の妹」
兄の名前を口にした嵐士は、杏奈が隼人の妹であると、勝手に納得してくれている。
「……あ、あ、あ、兄はまだ……」
声が震えて、言葉が上手く出てこない。
何でこんなに動悸が激しくなってしまうのか、杏奈にはその理由が全くわからなかった。