先輩上司と秘密の部屋で
自虐的な思考で導き出した答えに杏奈が頭を悩ませている頃、嵐士はオフィスの廊下を猛然と突き進んでいた。
目指す場所はプレゼンやミーティング、ゲストの応接などに使用されている多目的ルーム。
そこにいるはずの親友に、一刻も早く報告するべき問題を抱えている。
いつも冷静沈着を心がけてきた嵐士だが、今は如何せん穏やかではない。
“初めまして”と挨拶された時に感じたのは、紛れもなく――苛立ちだった。
怯えた表情が頭をちらつくたび、気が滅入りそうになる。
元来感情をあまり表に出さない性格のため、嵐士の些細な変化に気づく者はほとんどいない。
すれ違った女子社員たちは、なんだかいつもに増して凛々しい嵐士の面立ちに、思わず熱烈な視線を向けていた。
それを冷たい瞳で一瞥し、嵐士は多目的ルームの前で目当ての後ろ姿を見つける。
隼人のそばには普段営業部門にはいるはずのない人事部門の部長がいて、堂々と込み入った話を繰り広げていた。
「小白川くん、こういうのはもう……これっきりにしてくれよ」
「隼人、話がある」
驚いた人事部長が“じゃあ”と身を引き、足早に去っていく。
話を中断させた嵐士のことを、隼人は咎めることなく笑顔で迎えていた。