先輩上司と秘密の部屋で
「……その髪」
反対側とは長さの違う髪を嵐士に指摘された瞬間、杏奈の顔は一気に青ざめる。
―――見られた。
家に勝手に上がっても許される程、兄と親しい間柄にある、この男(ひと)に。
「じ、自分で! ……イメチェンしようとしたら失敗して……」
必死で言葉を発しながら、杏奈は段々俯いていった。バレバレにも程があるいい訳だ。
杏奈は高校に入学してから、ここまでひどくはなくとも、些細ないじめに繰り返しあってきた。
原因は、言わずもがな隼人だ。なぜなら隼人は、盲目的に杏奈を溺愛している。
どんな人でも魅了してしまう隼人に思いを寄せる女の子には、妹ですら邪魔な存在で、嫉妬の対象となってしまうらしい。
ちょっと考えれば、こんなことをしても、益々嫌われてしまうだけだってわかるはずなのに。