先輩上司と秘密の部屋で

杏奈と隼人が同じマンションで暮らし始めたのを聞いた時、動揺しなかったと言えば嘘になる。

遠慮していたわけでも、ましてや杏奈に未練があったわけでもないが、嵐士は隼人の家に近寄らなくなった。

ただなんとなく、ふたりが並んだ姿を目に入れたくなかったからだ。



「杏奈って、あの男と別れたと思う?」

「……」


両肘をテーブルにつきながら、隼人は確信的な笑みを浮かべている。

今回のことを知った時、嵐士は非常に複雑な気持ちになったし、隼人は何をしていたんだと非難する気持ちもあった。

あれだけ過保護に接してきたくせに、どこの馬の骨ともわからない男にあっさりと杏奈を奪われたらしい。

約二週間前、隼人が消え入りそうな声で助けを求めてきた夜のことを、嵐はぼんやりと頭の中で反芻していた。


「どちらにせよ、もう戻ってくると思うなー。杏奈、俺以外に頼る相手なんていないしね」


廃人寸前にまで陥っていた男の言葉に呆れて、嵐士は苦笑する。

どんな思いで自分から杏奈を切り離したか、隼人は知る由もない。

数年前の努力は水の泡と化した。

嵐士は結局またこうして、杏奈に関わるようになってしまったのだから。

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