先輩上司と秘密の部屋で

来年大学受験を控えている兄に、余計な心配はかけたくない。

そんな思いから、杏奈はくだらないいじめが兄に知られてしまうのを、ひどく恐れていた。



「……だ、誰にも言わないでっ……」



観念した杏奈は、勇気を振り絞って、黙って自分を見下ろしている嵐士にそう告げた。

黒谷嵐士という人物が、どういう性格なのか、噂では無愛想な人だと聞くけれど、実際のところよくわからない。

長い沈黙に耐え切れなくなって、杏奈は恐る恐る顔を持ち上げる。

その瞬間、雷に打たれたような衝撃が走った。

目の前に佇んでいる嵐士が、びっくりするくらい熱のこもった瞳で、杏奈のことをじっと見つめていたからだ。



「洗面所」

「……へ?」

「洗面所、どこ」

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