先輩上司と秘密の部屋で
黒髪の男はレジメンタルのネクタイと紺スーツに、グレーのオッドベスト。
もうひとりは明るい髪で、グレーのスーツにイッシュブルーのシャツを合わせ、清潔感に溢れている。
その洗練された着こなしに憧れを抱き、女にモテるのも無理はないと何度も思い知った、見覚えのあるビジネスコーディネートだ。
――門倉は思考が停止した。
寄り添いあっているのが男同士で、それも社内で一二位を争うほど人気のあのふたり。
(黒谷と小白川が……まさか……)
美男子ふたりのただならぬ雰囲気に、門倉は絶叫しそうになる口を必死で押さえ込む。
次の瞬間、門倉は全力でオフィスに駆け戻っていた。
もちろん、コーヒーを淹れに行ったことなど、すっかり忘れて。
「え、なに? ちょっと……どうしたの?」
息を切らせてデスクに舞い戻ってきた門倉の目が、完全に据わっている。
杏奈に資料作りの大まかな説明をしていた美那は、ずっと唸っている門倉を心配して声をかけていた。
「……お、俺は……み、み、見てしま……」
門倉が何を言っているのか、ここにいる誰もが理解できていない。
化物にでも会ったかのように取り乱している門倉を、杏奈と美那は、キョトンとした顔で見つめていた。