先輩上司と秘密の部屋で
「そういえばさっき……門倉さん、コーヒー持ってくるって……」
「……あっ!!」
杏奈に言われて、門倉は弾かれたように顔を上げる。
コーヒーどころか、給湯室にも辿り着かなかった。
あんなもん見せられて平然とコーヒー注げるか。
門倉は心の中で悪態をつきながら、バツの悪そうな表情を浮かべていた。
「えと、じゃあ、かわりに私が入れてきましょうか?」
「そ、そんなのダメだ!! 今は、絶対にやめたほうがいい!!」
立ち上がろうとした杏奈の腕を掴んで、門倉が行かせまいと必死に阻んでくる。
(いくらなんでも、コーヒーくらいちゃんと淹れられるのに……)
杏奈は門倉に信頼されていないと思い込み、せっかく浮上しかけた気持ちを、また急降下させていた。
「ちょっと門倉くん。なんなの一体。杏奈ちゃんに当たらないでよ」
美那はキレイな顔を顰めながら、門倉に詰め寄っていく。
「だ、だって黒谷と小白川が……」
「……えっ?」
門倉がふたりの名前を出した瞬間、一番に声を上げて反応したのは杏奈だった。