先輩上司と秘密の部屋で

「ねぇ杏奈ちゃん、君のお兄さんって……黒谷とかなり仲いいよね?」


門倉があまりにも真剣な顔で聞いてくるから、杏奈はごくりと音を立てて息を呑んでしまう。

隼人は顔が広く、嵐士以外にも友達と呼べる人は大勢いた。

でも、頻繁に家に連れてきたのは嵐士だけだ。

学校でもいつも一緒だったし、どちらかの家に泊まることもあった。

隼人の部屋に嵐士がいる日、杏奈は動悸が収まらなくて一睡も出来なかったくらいだ。


「黒谷さんと兄は昔からずっと親友です。……ごめんなさい。さっきは気が動転して言えなかったんですけど……私たち、同じ高校に通ってて……」

「やっぱりそうか。……そういうことなのか」


勝手にひとりで納得している門倉に、杏奈は首を傾げる。

美那は門倉の様子に少し驚いて、笑い混じりの声を上げていた。


「やだー門倉くん。まさか、あの噂信じてるの?」

「だって……俺さっき……」

「大体あれ、隼人くんや黒谷くんに振られた女子社員が流したデマだって言うじゃない。くだらなすぎて、さすがの私も本人には聞けなかったわ」


美那は呆れながら、門倉の背中を叩いている。

門倉の思いつめた表情に、杏奈はそこはかとなく胸騒ぎを覚えていた。


「あの……噂ってなんですか?」

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