先輩上司と秘密の部屋で

「もう、ほんとおかしいわよね。そんなの本気で信じちゃう門倉くんも」

「み、美那さん……やめてくださ……。私、本当に苦し……っ」


おかしくて息が続かない。

陰で隼人が男色家呼ばわりされている事実に、杏奈はひとり笑いをかみ殺していた。

隼人の恋愛対象は、心配せずとも女の人だ。

本人は隠しているつもりだが、過去に所謂“身体だけの関係にある人”が何人かいたことを杏奈は熟知している。

隼人が派手でキレイな女の人と繁華街を一緒に歩いている所を、杏奈は地元で何度も目撃した。

特定の恋人は作らないということは、そういうことなのだろう。

杏奈はそろそろ妹離れして相手を探してほしいと切実に思っているのに、隼人はそういう軽い付き合いばかりを懲りずに繰り返していた。


「あ、あのさ杏奈ちゃん……俺、真面目に話を……」


今まで呆気に取られていた門倉が、杏奈に向かってようやく口を開く。


「ご、ごめん門倉さん……。ちょ、ちょっと待っ……」


門倉の真剣な表情を見ると、また呼吸困難に陥ってしまいそうになる。

再び吹き出しそうになった杏奈は、必死で門倉のことを視界に入れないようにしていた。

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